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 淡水プランクトンについて 

淡水プランクトンとは
淡水プランクトンとして出現する生物
淡水プランクトンの分布について


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淡水プランクトンとは 
 淡水プランクトンとは,一言で言えば淡水に棲息するプランクトンということになりますが,その定義は案外難しいものです。まずプランクトンとは何かということが問題になります。プランクトンは,日本語では浮遊生物と訳されるように,移動能力があまりなく,水中に漂っている生物ということになりますが,実際はプランクトンとそうでない生物との間にはっきりした区別があるわけではありません。淡水プランクトンの図鑑でとりあげられている種の中には,本来浮遊生活をしないものがかなり混じっています。これは,一時的にプランクトンとなる種がかなりあるためです。


 まず,底泥や水草上で匍匐生活をする動物について考えてみます。写真1はウズムシの1種で,写真2は水性ミミズ(貧毛類)の1種です。いずれも匍匐生活をしており,プランクトンとしては扱われません。しかし,淡水プランクトンの図鑑には,主として匍匐生活をしている種がかなりとりあげられているのが普通です。主に匍匐生活をしているものとしては,輪虫綱のヒルガタワムシ科,繊毛虫綱の下毛目,甲殻綱の貝虫亜綱,橈脚亜綱ハルパクティクス目などかなり多くあります。しかし,ウズムシやミミズは,泳ぎ出すことがないのに対し,淡水プランクトンの図鑑にのっているものは,ときどき泳ぎだして一時的にプランクトンになることがあるために,図鑑でもとりあげているわけです。このホームページでも一時的にプランクトンになるものはとりあげています。 
 しかし,普段底生生活をしており,ときどき泳ぎ出すものがすべて一時的プランクトンとして扱われるわけではありません。移動能力があまり大きくないものをプランクトンとして扱うため,エビ類やヨコエビ類などのように,移動能力が大きいものは普通プランクトンとしては扱いません。

 次に,水草などの他物に固着生活をする動物について考えてみます。写真3はヒドラの1種(Hydra sp.)です。他物に固着して生活しています。これもプランクトンとしては扱われません。しかし,淡水プランクトンの図鑑には,主として固着生活をしている種もまたかなりとりあげられているのが普通です。主に固着生活をしているものは,繊毛虫綱の周毛目(ツリガネムシの仲間),輪虫綱のハナビワムシ科,マルサヤワムシ科など,これもかなり多くあります。しかし,ここでもヒドラは泳ぎ出すことがないのに対し,淡水プランクトンの図鑑にのっているものは,ときどき泳ぎだして一時的にプランクトンになることがあるために,図鑑でもとりあげているわけです。このホームページでも一時的にプランクトンになるものはとりあげています。

 次に,藻類について考えてみます。写真4に写っているものの中で,濃い緑色をした大きな糸状藻は,緑藻のミゾジュズモ Chaetomorpha okamurai です。これは底生生活をしている藻類で,プランクトンとしては扱われないのが普通です。ところが,その横に写っている細長い糸状藻はチグネマ属 Zygnrma sp. ですが,やはり普通は底生生活をしており,本来プランクトンではないのですが,淡水プランクトンの図鑑にはとりあげられています。これは,ミゾジュズモは藻体が大きいため,藻体がちぎれて浮遊しプランクトンネットに入ってくることがほとんどないのに対し,チグネマ属のほうはしばしばそのようなことがあるためです。このホームページでも,藻体が微小で,しばしば浮遊してプランクトンネットに入ってくる可能性のあるものはとりあげています。なお,水面に浮漂している維管束植物(ウキクサ,ホテイアオイ,サンショウモなど)は,プランクトンとしては扱われず,このホームページでもとりあげていません。

 以上の例からわかるように,プランクトンとそうでないものとの区別は明確ではありません。プランクトンは移動能力が小さいといっても,あくまで絶対量のことです。体の大きさと比較すれば,とてつもなく速く泳ぐものがプランクトンの中でも少なくありません。たとえば,輪虫や繊毛虫のなかには,1秒間に体長の数十倍の速さで進むものも珍しくありません。(魚類のなかで最速のマグロやカジキでもこれほど速くはないのではないかと思うのですが,どうなのでしょうか。)また,橈脚類(ケンミジンコ)でも,スポイトの中に吸い取ろうとすると,まるで瞬間移動でもしたかのようにすばやく逃げ回るものがあります。しかし,これらはいずれも体が非常に小さいため,移動速度の絶対量が小さく,プランクトンとして扱われるわけです。(ちなみに,プランクトンは小さいものばかりとは限りません。日本においては,淡水では大きなものはいませんが,海洋ではエチゼンクラゲのように,かさの直径が1メートルをこえるものもあります。)また,プランクトンとして扱われない生物,たとえば魚類でも,稚魚のうちは遊泳能力が小さく,動物プランクトンと大差ないと思われるものもあります。(海洋では稚魚の一部をプランクトンとして扱うこともあるようです。)

 さらに,プランクトンネットに入ってくる生物はプランクトンだけとは限りません。特に,体の小さい底生動物は,ネットを引く際などに,まきあげられて入ってくることがあります。このホームページではこれらも一部とりあげています。


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淡水プランクトンとして出現する生物

 淡水プランクトンとして出現する生物はさまざまですが,重要なグループは限られてきます。光合成をするものとしては,まず重要なグループとして,珪藻緑藻があげられます。これらには1次生産の担い手としてきわめて重要な役割をはたすものが多くあります。次に藍藻が重要で,特に最近はアオコの問題で注目されています。また,鞭毛をもっていて泳ぎ回るものも多く,その中では緑虫渦鞭毛藻褐色鞭毛藻黄色鞭毛藻が重要です。これらは大発生して水の色を変える(淡水赤潮)ことがあります。動物プランクトンとしては,まず重要なグループとして輪虫,および甲殻類の中の枝角類(ミジンコ)橈脚類(ケンミジンコ)があげられます。これらは魚の餌などとしてきわめて重要な役割をもちます。次に重要なグループとして繊毛虫があげられます。特に汚染された水域において重要になります。ほかのグループは重要度はそれほど高くないと思われますが,形や生態のユニークなものや,生物実験の材料などによく使われるものなど,注目すべきものも多くあります。


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淡水プランクトンの分布について

 生物のなかにはごく限られた地域にしか分布しないものが数多くあります。たとえば,チョウセンアカシジミ(シジミチョウの1種)は,日本では岩手,山形,新潟県下のごく限られた地域のみ,アユモドキ(ドジョウの1種)は琵琶湖淀川水系および岡山県下の限られた水域のみ,ヒダカソウ(キンポウゲ科に含まれる高山植物)は,北海道日高山脈のアポイ岳のみといったように,例はいくらでもあげることができます。淡水プランクトンではどうでしょうか。図鑑をみると,しばしば「分布:島根県」とか「分布:東京都不忍池」とかいった記述がみられます。しかし,これは島根県にしか分布しないわけでも,不忍池特産でもありません。ここで示されている分布とは,文献などで報告されているところや,図鑑の著者が自ら発見したところを記述してあるだけにすぎないからです。実際には大部分の淡水プランクトンは,分散力(これについては「日本の淡水生物」(東海大学出版会)の中の「分布の拡大」のところを見て下さい。)が大きいため,どこでみつかってもおかしくないものが大多数です。したがって,みつけた生物が,図鑑などを調べてこの種に間違いないと思ったのに,みつけたところと図鑑に記された分布が違うので,はたしてこの種であると同定して間違いないのだろうかなどと心配する必要はまずありません。甲殻類(ミジンコ,ケンミジンコ類)などでは,南方系や北方系の種があるようですが,それでも関東以南とか北海道以北などのおおざっぱな範囲での話で,極めて限られた地域のみといったものではありません。ただ,例外として,琵琶湖特産あるいは日本では琵琶湖のみに発見されている種が数種あります。ほかにも限られた水域にしか分布しない種があるようですが,ほんの数種のようで,ほとんど気にすることはありません。しかし,狭い範囲で見ると,A池にはa種がいるが,b種は見つからず,B沼にはa種は見つからないがb種は多産するといったことがよくあります。特に甲殻類(ミジンコ,ケンミジンコ)によくあることのようです。このような狭い範囲での分布を調べるのもおもしろい研究テーマになるのではないかと思います。

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